デザイン紹介

生物の構造からデザインを。バイオミメティクスデザインとは

地球上に生物が誕生して38億年、長い月日の中で数多くの生物が誕生し、衰退していきました。

生物はそれぞれがおかれている環境と共存し生きていくために進化を繰り返したことにより、優れた機能や体構造を持っています。

昨今、世界中で生物の構造からヒントを得たバイオミメティクスデザインが注目されています。

今回はバイオミメティクスデザインとは何か、またそのデザインを取り入れた事例をご紹介しましょう。

動物や植物がヒント?バイオミメティクスとは

遥か昔から、人類の夢は「空を飛ぶこと」。

イタリアの代表的な芸術家であるレオナルドダヴィンチは、芸術家という域を超えて工学や建築の分野にも明るかったということをご存知の方も多いのではないでしょうか。

その中でも、人類の夢を実現するために、鳥の飛翔を観察・分析することで、パラグライダーやヘリコプターなどの飛行機体の設計をしていた話は有名です。

また飛行に成功したライト兄弟は、飛んでいる鳩を観察することによって、着想を得たとも言われています。

このように、自然界の生物の形態や体の構造、それによって生じる機能を観察・分析し、模倣することで、新しい技術の開発やものづくりに活かす科学技術のことを「バイオミメティクス」と呼んでいます。

20世紀に入り、1950年代にアメリカ合衆国の神経生理学者であるオットー・シュミットによって、この「バイオミメティクス」という言葉が概念化され、提唱されました。

身近なバイオミメティクスデザインを探してみよう

私たちが日常生活で使用しているものや、工業製品、建築資材などにおいて、このバイオミメティクスにより作られた製品が数多くあるのをご存知でしょうか。

身近なバイオミメティクスデザインの製品をご紹介しましょう。

デザインの元と
なった生物
製品 生物の体構造と機能
オナモミの実 マジックテープ オナモミの実のイガの先端がフック状に曲がっていることから、衣服や動物の毛につくと実が外れにくい。
ハスの葉 ヨーグルトの蓋、ご飯が付かないしゃもじなど(撥水加工) 葉の表面が微細で球状の細胞により、水をはじく効果がある。
サメ肌 競泳水着 無数の鋭い歯のような形状のうろこに覆われているため、水の抵抗が少なくなり、乱流を逃れることができる。
蚊の口 無痛注射針 蚊の口にある針は直径わずか0.02mmと、人に痛みを伴うことなく血を吸うことができる。
蛾の目 反射防止フィルム 暗闇の中で目に入った光が反射して外敵に存在を知られないために反射しない構造の目を持つ。
カタツムリの殻 汚れにくい壁 細かくて規則正しい溝があり、また表面には薄い水膜があることから、水で流しただけで汚れや油を浮かせて流れ落とすことができる。
フクロウの翼 500系新幹線のパンタグラフ 翼がギザギザの構造になっているため、羽音を立てることなく獲物に近づくことができる。

バイオミメティクスデザインでサスティナブルに

18世紀の産業革命以降、人類は石炭や石油などの地下資源に依存し、大気汚染や生態系の破壊、そして地球温暖化と地球環境を悪化させ続けてきました。

ようやくここ数十年で環境問題が取り沙汰され、持続可能な循環型社会に向けた取り組みがすすめられるようになりました。

こうした中で、バイオミメティクスの技術が注目されています。

この技術を活用することで無駄な資源を省き、地球への負荷を軽減することが、私たちにとって今後の課題と言えるのではないでしょうか。

日本でもアホウドリやイヌワシの翼を模倣してエアコンの室外機のプロペラファンを作り、従来よりも低騒音化、省資源化に成功した例があります。

サスティナブルな世界を実現させるためには、デジタル技術も必要ですが、生物を深く知ることも必要なのです。

最新のバイオミメティクスデザイン

全世界の大学や研究機関、製造メーカーなどではバイオミメティクスの研究が進んでいます。

欧米諸国から始まったバイオミメティクスも、現在では日本国内でも技術格差なく開発が行われているのです。

2020年4月時点で、未だ開発中ではありますが、バイオミメティクスデザインの事例を紹介したいと思います。

生物のどのような体の構造や機能を模倣してデザインされているのかに注目をしてみましょう。

2020×TOYO 競技用カヌー

競技用のカヌーは身体が大きい欧米人仕様だったため、身体の小さな日本人には使いにくく、力をフルに発揮することができませんでした。

そこで、日本人仕様のカヌーを国産で作ろうという考えのもと、2017年にプロジェクトがスタート。

バイオミメティクスや流体力学が応用されたデザインにより、水の流れにのっている時には抵抗を大きく、漕ぐ時には抵抗を少なくするように設計されました。

船頭には水面への突入時に水の抵抗を減らすためにカワセミのくちばしを、船尾には平たいくちばしを素早く左右に振り、水底をさらいながら獲物を捕まえるカモノハシのくちばしを模倣。

また、船体の側面にはジェット噴射のように水を吹き出し、加速させるために、サメのエラを模倣し、ギザギザした構造を取り入れています。

LINK UP TOYO (リンクアップトウヨウ)東洋大学

航空機のバイオニックエアフレーム

世界において製造コストを減少するため、素材や製造過程を見直しが行われている中、航空機を作るための標準材である複合材をより薄く、より強度にすることが求められています。

まずは航空機の要である主翼にターゲットをあて、飛行速度によって強度を下げることなく、より最適な形状へと導く生物の骨組みに似た構造にすることを目的として複合材の開発が進められています。

現在においては、背びれと尻びれだけを使って泳ぐマンボウや、獲物を取る時に急落下・急停止を行うハヤブサの骨格を参考にしてプロトタイプを製作し、実証実験が進められているそうです。

JAXA空港マガジン FLIGHT PATH

未来を切り開くバイオミメティクスデザイン

ここからは面白いバイオミメティクスデザインをご紹介しましょう。

まるでアニメやSFの世界から出てきたようなデザイン。

これが本当に実用化されるのかは現在のところわかりませんが、もし将来的に実用化されるのであれば、世の中がより面白くなるかもしれません。

Bird of Prey

これはSFか?と思わせるような航空機のデザイン。

実際に、エアバスがイギリスの航空ショーで発表した、地域輸送用のハイブリッド電気ターボプロペラ機です。

ワシやタカという猛禽類から着想を得たというこの機体は、主翼の両端は羽根を、尾翼は尾羽根を模倣しています。

もしこのデザインが採用されたとなれば、燃料消費が従来に比べて30~50%も削減できるそうです。

エアバスは過去に、航空機内の乗客と客室乗務員のエリアを分けるパーテーションもバイオミメティクスデザインにより開発しています。

その際は粘菌の成長パターンを模倣し、強度と軽量化を成功させました。

また原料の削減や飛行時の燃料削減に貢献しています。

An Airbus futuristic conceptual airliner “takes flight” to inspire next-generation engineers – Innovation – Airbus

ANPHIBIO Biomimetic Artifical Gill

 

材料工学バイオミメティクスという工学分野に、デザインという芸術分野を掛け合わせた技術を持ち、自らをバイオミメティクスデザイナーと称している亀井潤氏。

2018年に人工エラの基礎技術を開発し、現在、イギリスで人と海との共生をテーマとし、海で身に着けるものを通じて社会課題にアプローチする商品を開発しています。

水中昆虫の呼吸メカニズムからヒントを得たという「Biomimetic Artifical Gill」は、マスクと人工エラが合体したスーツ。

温暖化により海水面が上昇し、水の中での生活を余儀なくされてしまった人間のためのスーツというコンセプトのもと作られました。

水中の酸素を取り込み、二酸化炭素を排出して水中でも呼吸することができるようにしたもので、現在スクーバダイバーやフリーダイバーにより実験しながら開発がすすめられています。

Jun Kamei

生物の構造からデザインを。バイオミメティクスデザインとは まとめ

バイオミメティクスデザインにすることで、私たちの生活を豊かにするだけではなく、地球環境をも守ることに繋がります。

次に企画する商品があるのであれば、バイオミメティクスデザインを取り入れてみてはいかがでしょうか。