3月の桃の節句には桜餅、5月の端午の節句には柏餅…と日本人に昔から馴染みのある和菓子。
繊細な職人技と日本古来からの伝統美のコラボレーションから生まれた和菓子は実に素晴らしく、思わず見とれてしまう方も多いのではないでしょうか。
今回は日本の伝統色の組み合わせである「かさね色目」にちなんだ和菓子のデザインをご紹介します。
目次
茶道には欠かせない和菓子
日本の伝統芸道である「茶道」に欠かせないのが和菓子。
日本人らしい習い事がしたいと茶道を習い始める方もいれば、その季節にあった和菓子が食べられるからと始める方もいるようです。
茶道の場合、表千家と裏千家など流派はさまざまありますが、和菓子はどの流派においても、お抹茶を引き立たせる大切なものなのです。
茶道で使用する和菓子
茶道で出される和菓子は、何でもよいわけではありません。
茶道の場合、練り切りや饅頭などの日持ちがしない主菓子(おもがし)と落雁などの日持ちがする干菓子(ひがし)を使用しています。
濃茶には主菓子、薄茶には干菓子を使用するのが、茶道の正式な作法ではありますが、最近では薄茶の場合、主菓子と干菓子を合わせて出されることが多いようです。
和菓子をいただく時の作法
お抹茶をいただく時にも作法があるように、和菓子をいただく時にも作法があります。
まず和菓子を取り分けることからはじまります。
縁高という重箱のような器に和菓子が盛られています。
自分の懐から懐紙を出して、盛られている中から一つずつ取り出し、隣の人へと和菓子が入った器をまわしていく…というものです。
そして、全員に和菓子がまわり、亭主から「どうぞお菓子をお召し上がりください」と言われてはじめていただくことができるのです。
また、和菓子が甘く、お抹茶が苦いので、交互に食べたり飲んだりした方が美味しいのではないかと思われる方もいると思います。
しかし、茶道ではマナー違反とされています。
まず、甘い和菓子を食べてから、苦いお抹茶をいただくことで、より一層お抹茶を美味しくいただくことができるのです。
和菓子の種類
和菓子には、大きく分けて「生菓子」「半生菓子」「干菓子」に分けられます。
前述した「主菓子」は「生菓子」にあたり、生菓子の中で上等な和菓子である「上生菓子」のことをいいます。
全国和菓子協会によると、作り方や原料により、一般的には下記のような分類となるようです。
生菓子
- 餅物:草餅
- 蒸し物:蒸し羊羹
- 焼き物:どら焼き
- 流し物:水羊羹
- 練り物:練り切り
- 揚げ物:あんドーナツ
半生菓子
- あん物:石衣
- おか物:最中
- 焼き物:桃山
- 流し物:羊羹
- 練り物:ぎゅうひ
干菓子
- 打ち物:落雁
- 押し物:塩がま
- 掛け物:おこし
- 焼き物:ボーロ
- あめ物:有平糖
かさね色目と和菓子
「かさね色目」という言葉をご存知でしょうか。
平安時代に貴族たちは、十二単のように何枚も着重ねた着物の襟元や袖口、そして裾元の色の組み合わせを楽しんでいました。
貴族たちは季節とともに変化していく色合いを感じ取り、着物の表地と裏地の配色で四季折々の自然を表していたのです。
これが「かさね色目」です。
着物だけではなく、恋文に使われる和紙においても、この「かさね色目」を意識することが、この時代の人々のたしなみでした。
2019年は改元の年ということもあり、女性皇族の方々が十二単を着ていらしていたのを見て、襟元や袖口から見えるその色合いの美しさに日本の伝統美の良さを感じた方もいるのではないでしょうか。
春には梅や桜、夏には菖蒲、秋には紅葉、冬には雪牡丹といったように、季節感をかさね色目で表現していました。
そのため、どの色をどのように使うかによっても、その人のセンスが問われ、その色合いが絶妙であれば「センスが良い人ね」と思われたのだそうです。
現代において、日本の伝統色は色々な場面で使われています。
東京スカイツリーのイルミネーションも、江戸紫という伝統色を使っているのをご存知の方も多いでしょう。
同じように和菓子においても日本の伝統色が使われています。
わびさびを重んじる茶道には欠かせない和菓子の世界にも、伝統色を使った「かさね色目」は和菓子デザインを考えるうえで重要なのです。
季節と日本伝統色
日本の伝統色は全部で465色もあるのをご存知でしょうか。
その色の中から、その季節に合う色合いを選んで「かさね色目」ができています。
かさね色目の例として、四季にちなんだ色目をご紹介しましょう。
春
・梅重ね:濃紅+紅梅
・雪の下:白+紅梅
・若草:淡青+濃青
・薄花桜:白+淡紅
夏
・葵:淡青+淡紫
・かきつばた:淡萌黄+淡紅梅
・なでしこ:紅:淡紫
・夏萩:青+濃紫
秋
・朽葉:濃紅+濃黄
・桔梗:二藍+濃青
・紅葉:赤色+濃赤色
・つぼみ菊:紅+黄
冬
・枯色:淡香+青
・椿:蘇芳+赤
・氷重ね:鳥ノ子色+白
・枯野:黄+淡青
かさね色目にちなんだ和菓子デザイン
饅頭やどら焼きなど、年中食べられる和菓子の場合は、季節感を出す必要がありません。
しかし、茶道で使われる和菓子の場合は「かさね色目」と同じように、季節によって形や色などのデザインが異なります。
季節感を出すために、その季節の花や自然の風景をモチーフとするだけではなく、その季節に合った「かさね色目」が使われているのです。
「かさね色目」と和菓子には切っても切れない関係があるのです。
では、かさね色目にちなんだ和菓子をご紹介しましょう。
色目だけではなく、和菓子の形やデザインについても注目してみてください。
春 花筏(笹屋伊織)
桜の蕾が膨らみ始める3月。
寒かった冬も終わりに近づき、段々と暖かくなっていくのを肌で感じるように、桜の花が一輪、また一輪と咲き始めることで春を感じる方も多いのではないでしょうか。
日に日に桜は満開となり、風が吹くと飛び散る、その花びらは川辺で花筏となってからも人の目を楽しませてくれます。
薄花桜(白+淡紅)で桜を、白藍色で川の色を表現するだけではなく、川の流れの中に花筏を表現したこのデザインは、桜が咲く春を感じることができます。
夏 流れ星(鶴屋吉信)
織姫と彦星が一年に一度で会えるという七夕がある7月。
今年の七夕は晴れるかなと夜空を見上げることが多くなるのではないでしょうか。
そんな時にどこからかひとすじの流れ星。
慌ててお願い事をした経験はありませんか?
葵(淡青+淡紫)で夜空を表現し、ひとすじを星とともに表現することで、流れ星の早さも表現されています。
夏の夜空を葵の色目のグラデーションによって表現された絶妙な色目が素敵だと思いませんか?
秋 綾錦(鶴屋吉信)
秋になると山々は色づき始めます。
もみじはオレンジ色から赤色へ、イチョウは黄色へと日を追うごとに濃い色となり、山を鮮やかに染め上げます。
華やかに色づいた山々の風景は、まさに京都が誇る綾や錦の織物のようです。
紅葉(赤色+濃赤色)や青紅葉(青+朽葉)の色目のきんとんで紅葉した葉を表現しています。
色目だけでも秋を感じることができる和菓子です。
冬 雪紅梅(虎屋)
寒い冬がそろそろ終わりに近づく頃、真っ白の雪景色の中に、雪うさぎのように小さな紅梅が咲き始めます。
しかし、すぐに暖かな春になるわけでもなく、まだ寒い日々が続くことを人々は悟っているのです。
紅梅が咲いたとしても、雪が降る日はあります。
雪がうっすらと紅梅にかかる、その情景を思わせる和菓子です。
春のかさね色目でもある雪の下(白+紅梅)は、冬のかさね色目でもあります。
和菓子の妙。かさね色目と和菓子デザインの関係とは? まとめ
日本の伝統菓子「和菓子」。
最近ではハロウィンやクリスマスにちなんだ和菓子もあるようですが、日本の伝統色を使っている「かさね色目」を使って表現した和菓子が日本らしいのではないでしょうか。
「かさね色目」は和菓子以外にも使うことができます。
日本らしさを演出したい場合には、「かさね色目」を意識してデザインすることをおすすめします。