扉を開けると番台があり、その奥にある浴室のガラス戸からペンキ絵が見える…昔ながらの銭湯のイメージはこのようなイメージではないでしょうか。
昨今、銭湯ブームが再到来しているものの、後継者不足により廃業してしまう銭湯が後を絶ちません。
そんな中、ペンキ絵を一新して再起をかける銭湯もあります。
今回はそんなペンキ絵にターゲットをあて、ペンキ絵を描く絵師や、そのデザインについてご紹介しましょう。
目次
進化しつづける銭湯
最近は不動産屋で賃貸物件を見る限り、風呂なし物件を探す方が難しくなりました。
1963年に家庭でのお風呂の普及率が59.1%だったのに対して、2008年には95.5%に達し、現在においてはほぼ全世帯に行き渡ったのではないでしょうか。
そのため、銭湯が最も多かったと言われている1968年には全国で約18,000軒もあったのにもかかわらず、現在においては4,000軒を下回っているのが現状のようです。
しかし、日本の文化である銭湯を絶やしてはならないと、それぞれの銭湯が、人々に親しんでもらえるような施策を考え、新しい催しを行っているのです。
古い銭湯をまるごとリニューアルして若い世代にも入りやすいようなスタイリッシュで明るいイメージにしたり、浴室でお風呂に浸かりながらプロジェクションマッピングを見ることができるようにしたりと、以前の銭湯のイメージをくつがえすかのごとく、今、銭湯は日々進化しつづけています。
なぜ浴室の壁面には絵が描かれているのか
「銭湯のイメージは?」と聞かれて、どのように答えるでしょうか。
色々な答えがある中で、「浴室の壁面に描かれている絵」だとか「ペンキ絵」と答える方もいるのではないでしょうか。
銭湯のはじまりは江戸時代。
江戸時代にはまだ浴室の壁面に絵は描かれていなかったようです。
初めて描かれたのが1912年。
東京・神田にあった「キカイ湯」が発祥と言われています。
キカイ湯の経営者が子どもたちに喜んで湯舟に入ってほしいと、浴室の壁にペンキで描いたのがはじまりなのだとか。
その時に描いたのが「富士山」。
絵を描いた絵師の故郷が富士山に近かったからという言われています。
富士山は日本の信仰の対象でもあり、この国を象徴する山でもあります。
また末広がりの形が縁起が良いと、周りの銭湯も真似をしだして急速に広まったのです。
東はペンキ絵、西はタイル絵?!
銭湯の浴室に描かれた絵はペンキ絵だけではありません。
大型のタイルに上絵を描き、焼成したタイルを使ったタイル絵もあります。
関東は絵師が描くペンキ絵が主流ですが、関西はタイル絵が主流です。
タイル絵の銭湯というと、京都の銭湯を思い出す方もいるのではないでしょうか。
タイルは耐久性だけではなく、耐火、耐水という機能もあります。
また、水垢やカビが発生しても簡単に取り除くことができます。
その利点からタイルが浴室に使用されていることが多いのですが、特に京都にある銭湯には壁面をペンキ絵ではなく、タイル絵で施されている銭湯を多く見かけます。
タイル絵には、宝船や鯉の滝登りなどの縁起のよいデザインが使われていることが多く、
宝船はさることながら、鯉の滝登りは「鯉は滝を登ると龍に変身する」という伝説があり、出世を表すおめでたいデザインだとされています。
ペンキ絵といえば
タイル絵に縁起が良いデザインが多く使われていますが、ペンキ絵の場合はどのようなデザインが多いのでしょうか。
日本人はなにかと縁起を担ぐことが多いので、反対に縁起の悪い「猿」「夕日」「紅葉」はペンキ絵ではデザインとして使われることがないようです。
なぜなら、「猿」は「去る」、「夕日」は「沈む」、「紅葉」は「赤字」を連想させてしまうので、商売上縁起が良くないと描かれることはないそうです。
定番は富士山?!
ペンキ絵の発祥は「キカイ湯」の富士山であったことから、今でも富士山はペンキ絵には欠かせないデザインです。
富士山信仰があつい関東近郊の銭湯の多くが、この富士山をペンキ絵に採用しているそうです。
しかし、富士山を拝むことのできる関東近郊以外の銭湯の場合には、「富士山」ではなく、他のデザインが描かれているようです。
例えばその地域にある山々が描かれていることもあれば、その地域に特化した建造物などが描かれていることもあるそうです。
新しいデザインも
関東近郊では定番となっている「富士山」のデザイン。
しかし、最近では富士山だけではなく、東京の新名所「スカイツリー」や、富山市物産振興会とのコラボ企画で立山連峰と北陸新幹線が描かれているものもあります。
また、子どもにも銭湯に親しんでもらえるよう、子どもが入る率が高い女湯のペンキ絵には日本昔話に出てくる情景が描かれているペンキ絵もあります。
たった3人だけ?!もはや貴重な存在の「銭湯絵師」
耐久性のあるタイル絵とは違い、耐久性のないペンキ絵は、絵師により何度も塗り替えされてきました。
銭湯の数が多かった時代には数多くの絵師がいましたが、現在のところ、日本には3人しか絵師はいません。
3人の絵師の中には弟子を取り、後継者を育てている絵師もいますが、絵師は貴重な存在となっています。
絵師は「丸山清人絵師」、「中島盛夫絵師」、そしてもともとは中島盛夫絵師の弟子であり、独立して絵師になった「田中みずき絵師」の3人。
最近では絵師同士でコラボして1つの銭湯のペンキ絵を制作するイベントも開催されています。
日本における銭湯文化には欠かせないペンキ絵を絶やさぬよう頑張っている絵師たちです。
見に行きたい!話題のペンキ絵をご紹介!
ペンキ絵の銭湯のペンキ絵の塗り替えを、この3人の絵師だけで行うことは難しく、デザイン制作込みの塗り替えを公募で行っている銭湯も一部ですが存在しています。
絵師が描く日本画タッチのペンキ絵ではなく、全く違う作風で描かれているペンキ絵もあるのです。
今、銭湯マニアの中でも話題となっているオシャレなペンキ絵がある銭湯をご紹介しましょう。
改良湯
もともとは創業100年を超える超老舗銭湯が、2018年にスタイリッシュな銭湯に大変身。
東京・恵比寿という地域柄もあって、外国人観光客にも好評です。
リニューアル後はお風呂だけではなく浴室内をダンスフロアにしてイベントを行うなど、従来の銭湯では考えられないような斬新な催しが行われています。
浴室の壁面に描かれたペンキ絵は、Gravityfreeというペインティングユニットによるもので、私たちに馴染みがあるペンキ絵とは作風が異なり、スタイリッシュそのものです。
大塚記念湯
画像引用元:大塚記念湯(@KinenyuSauna)Twitter
昭和元年(1926年)に開設され、大正から昭和にかわったことを記念して「大塚記念湯」と名付けられました。
銭湯のドアを開け、脱衣所に入ると天井には一面の宇宙が描かれています。
そして、浴室の壁にもにぎやかな街のうえには、大きく宇宙が広がっています。
2019年3月に浴室のペンキ絵をリニューアル。
ペンキ絵には街だけではなく、宇宙人やパンダや恐竜などもいて、子どもたちも絵を見るのが楽しみになりそうです。
別名スペース銭湯と言われているだけあって、銭湯全体が宇宙一色で富士山は描かれていないようです。
もはや銭湯は小さな美術館!見に行きたいペンキ絵のデザイン まとめ
昨今、銭湯に親しんで欲しいと、銭湯では色々なイベントが開催されています。
浴室をライブ会場にして音楽を楽しんだり、ダンスフロアとしてクラブイベントが行われていることもあります。
また、ペンキ絵の塗り替えの時には、絵師が描くペンキ絵をライブで見ることができるイベントもあります。
お風呂に入るだけではない銭湯には魅力がいっぱいです。
ぜひ銭湯にペンキ絵を見に行ってみてはいかがでしょうか。