クリエイティブ産業やクリエイターについて、国や自治体が中心となり、さまざまな資料が発表されているのをご存じですか。
資料にはデザイナー、そして発注者である企業にとってメリットのある情報が多数掲載されています。
しかし、内容を読み解くのが難しかったり、そもそも資料に目を通す機会がなかったりして、有益な情報を見落としている方は少なくありません。
デザインのコト。では、こうした興味深いクリエイティブ産業の資料をシリーズでご紹介しています。
今回は、神奈川県鎌倉市に着目し、クリエイティブ産業研究プロジェクトチームクール・カマクラの発表した「鎌倉草創塾・平成25年度研究成果報告書」について触れていきます。
鎌倉にはどんな施策が必要とされているのか、今後どんな展開をしていくのか…鎌倉に軸を持つ方や興味をお持ちの方必見です。
目次
資料から読み解く 鎌倉 × クリエイティブ
クリエイティブ産業研究プロジェクトチームクール・カマクラでは、IT産業を核としたクリエイティブ産業の誘致および育成を目標とした研究を行っています。
「鎌倉草創塾・平成25年度研究成果報告書」の中では、他の自治体の取り組みを紹介しながら、IT産業と鎌倉を軸に多彩な考察を行っています。
鎌倉草創塾とは
鎌倉市では、「データや知見に基づいた中長期の将来展望に係る提言」「今後必要な施策を検討するための基礎データの収集・分析」が難しいという問題を抱えていました。
そのため、平成25年度に新たなプロジェクトチームを設置しました。
今後厳しくなると予測される自治体運営に耐えられるよう、「職員の政策形成能力の向上」のために鎌倉草創塾を開講して、調査研究に積極的に取り組んでいます。
今回ご紹介する資料は、鎌倉草創塾のクリエイティブ産業プロジェクトチームのものです。
少子高齢化が進む中で、地域活性化を目的とした企業誘致が激化しています。
そこで鎌倉市は国のクールジャパン戦略に着目し、クリエイティブ産業の育成とその可能性を模索しています。
鎌倉の地域性における企業誘致のメリット・デメリット
鎌倉に企業を誘致するためには、オフィス環境が欠かせません。
鎌倉は地域のブランド力があり、人が集まりやすいですが、市内居住(職住近接)が難しく、IT産業への需要が少ないといったデメリットも見られます。
さらに、「取引・協業」に目を向けた時、主要な取引先は地元より都内の方が多く、パートナーも都内や横浜の同業者が多いという結果が出ています。
鎌倉をクリエイティブ・ハブに
ただ、企業が集積することにはメリットもあります。
それは、協業がはかどること、そして仕事の効率化や質の向上が期待でき、情報発信力や影響力が向上することです。
競合の恐れがあるのはデメリットといえますが、本報告書では、クリエイティブ・ハブ機能を担うシンボル(集合体)の重要性を指摘しています。
更に、オフィス面積の不足に対しては、空き店舗や空き家を利用した、分散型インキュベーション施設の設置を提案。
クリエイティブ・ハブとインキュベーション施設の2つを軸に、自治体によって、段階的・長期的な支援を行うべきと指摘しています。
鎌倉で進む取り組み
鎌倉市では、「まちの将来像3つの視点における取り組みの方向性と実現化メニュー」を発表しています。
中でも注目したいのが「イノベーションを生み出すまち」の項目です。
新しい働き方に対応した環境づくりだけではなく、 企業間交流の促進やコミュニティ形成支援にも触れており、「(深沢型リビングラボの実現」として、交流・マッチング・ラボ機能の導入」をあげています。
環境などのハード面だけではなく、交流やマッチングなどのソフト面での整備も、今後の方針に盛り込まれているのです。
深沢地域周辺地区のまちづくり
鎌倉市にある深沢地区では、街づくりのテーマを2004年に「ウェルネス」に制定し、2016年には基本要素を固めました。
具体的には以下の7つです。
- セーフ
- ヘルシー
- アクティブ
- メッセージ
- ナチュラル
- コミュニティ
- ユニバーサルデザイン
注目したい深沢地区のクリエイター向け施策案
中でも産業の集積を目指した「メッセージ」では、「イノベーションを生み出す基盤と人材の創出」「先端ヘルスケア産業の集積によるヘルスケアイノベーションの新拠点形成」だけではなく、「人生100年時代のウェルネスなライフスタイルの実現」を掲げています。
新しいワークプレイスづくりや、最先端のテクロノジー・ウェルネスをテーマとする新しい暮らしの場づくりなどがあげられるなかで、具現化メニューの例示には、職住近接やウェルネス住近接を目的とし、ワーカー・研究者・クリエイター向けの住宅やスマートウェルネス住宅などが挙げられています。
また、中長期の滞在を視野に入れた、出張や研修そして交流を目的としたホテル・サービスアパートメントの設置にも触れています。
これは単に、ワーカー・研究者・クリエイターが利用するだけではなく、アスリートや指導者などのスポーツ関係者の利用も想定されているということです。
このように、鎌倉市内では、多彩なクリエイター支援策が検討されています。
鎌倉を厚くする人をITで応援する「KAMACON(カマコン)」
鎌倉の魂を持った人たちの運命共同体であるKAMACON(鎌魂/カマコンバレーは、鎌倉を熱くしたい人々をバックアップしている団体です。
参加メンバーの約3割がITやクリエイティブ産業にかかわる方です。
参加メンバーが「ぜんぶジブンゴト化」し、本気で取り組みに参加することで、鎌倉の街を盛り上げていきます。
主要プロジェクトは、クラウドファンディングから鎌倉の会社説明会まで幅広く、スピーディーな展開が可能なITやクリエイティブ産業を中心に活動を行っています。
地域創生に民間が立ち上がる例は多くありますが、カマコンバレーはIT・クリエイティブ産業を中心としており、クリエイターの支援や起用に繋がるプロジェクトもみられるのが特徴です。
「海のまもり鳩」を設置
KAMACONの取り組みのひとつに、「環境」や「社会問題」があります。
海のマナー向上と誰もが楽しめる海水浴場にするために、クラウドファンディングが行われました。
そして、海のまもり鳩の砂像を海水浴場に設置するプロジェクトが成立し、実行されました。
このように鎌倉では、行政だけではなく、地元の企業や住民が主体となって、海水浴場に砂像を設置するというクリエイティブ活動を通して、問題の解決に取り組んでいるのです。
誰かのいいアイデアを地域全体で形にする「iikuni(イイクニ)」
鎌倉を良くしたい人とアイディアを応援する人をつなぐ「iikuni」は、鎌倉に特化したクラウドファンディングです。
プロジェクトの目標金額に達成するとチャレンジ成立となり、クレジットカード手数料とiikuni運営手数料の15%を引いた85%がプロジェクトの実行者に支払われます。
プロジェクトの支援には何らかのリターン(対価)が提供されます。
プロジェクトには環境やイベントなど、ジャンルを問わず多彩な募集が見つかります。
『鎌倉から「今に生きる伝統」作務衣を本格発信』や、事業化が決まった「鎌倉に1週間移住できる試み(鎌倉microstayプロジェクト)」等、鎌倉を盛りあげていくためのプロジェクトばかりです。
資料から読み解くクリエイティブ産業シリーズ~神奈川県鎌倉市編~ まとめ
神奈川県鎌倉市の資料を基に、鎌倉の行っている取り組みや、今後の展望をご紹介しました。
鎌倉市は企業誘致やクリエイター誘致、そしてコミュニティの形成に力を入れています。
多彩な支援や環境の整備がなされることで、クリエイティブ産業が集積し、今後も発展が見込める地域といえるでしょう。
素敵なクリエイターさんをお探しの方は、神奈川県鎌倉市に軸を置くクリエイターさんに注目してみてはいかがでしょうか。